普通 5-6 【追撃密命】
【Part 1】
ヘリアン「以下、繰り返します」
ヘリアン「AR小隊の戦術人形、AR-15が5分前に下したコントロールルームへの復帰命令に、未だ応答していません」
ヘリアン「保安要員の統制から外れて本区域を離脱し、現在行方不明状態です」
ヘリアン「現在該当戦術人形は鉄血のウイルスに感染して統制されている恐れがあるので、非常に危険です」
ヘリアン「なお、彼女の通信モジュールは遮断されているため、GPS追跡も不可能です」
ヘリアン「通信を聞いている全ての指揮官は、直ちに該当人形の行方を追跡して下さい」
ヘリアン「発見次第、上部に報告及び制圧して下さい」
ヘリアン「必要ならば、該当人形への攻撃または破壊を許可します」
……グリフォン臨時指揮室。
M4A1「指揮官、今の命令、お聞きになりましたか?」
M4A1「もう……どうすれば」
M4A1「指揮官……どんな命令であれ……私達は従いますので」
M4A1「ですから……どうかご遠慮なく、ご命令を」
……
M16A1「M4、指揮官は何て言った?」
M4A1「どうしてもまずはAR-15を探し出せと…」
M16A1「だろうな。SOPⅡ、何が分かったか言ってみろ」
M4 SOPMODⅡ「うん……以前のデータを利用してデストロイヤーの最新座標を見つけた」
M4 SOPMODⅡ「このデータはまだどこにも報告してないから、誰よりも早く行けるよ」
M4A1「デストロイヤー?アレを見つけたって何が出来るんですか?」
M16A1「M4、本当にAR-15が鉄血に制御されてると思うのか?」
M16A1「一抹の可能性があったとしたら、彼女は自発的に脱出して、すべきことを……」
M4A1「……AR-15は、デストロイヤーを探し出して……仕返しを……?」
M4A1「でも……AR-15は人形として、どうやってグリフォンの命令よりも自分の意志を優先できたのでしょうか…」
M16A1「M4……」
M16A1「お前よりも私の方がAR-15を知ってるぞ。いや……AR小隊を知ってると言うべきか」
M16A1「いつかはお前にも分かるよ。だがそれは今日ではない」
M4 SOPMODⅡ「指揮官、命令を出して。鉄血の最後の防御線まで叩き潰して、デストロイヤーとAR-15を連れてきてやる!」
【Part 2】
……とあるグリフォンの廃墟になっていた指揮室ーー鉄血のデストロイヤーの最後の隠れ場所。
デストロイヤー「……ドリーマー、聞こえてる!?グリフォンのやつら、予想よりもずっと速いよ!」
ドリーマー「……」
ドリーマー「あら……何をそう騒いでるの」
デストロイヤー「早くあんたの火力であいつらを食い止めてよ!」
ドリーマー「……ん?どうして?」
デストロイヤー「言ったじゃない!あたしが任務を果たせば、あんたが空中支援で援護してくれるって!」
ドリーマー「お……」
ドリーマー「じゃあ……任務は果たしたの?」
デストロイヤー「クルーガー目当ての攻撃は失敗したけど、これくらい想定内だったし」
デストロイヤー「今大事なのは、AR-15に移植したコードが発動したおかげで、あいつのクラウド・マインドマップから#3セーフハウス関連の資料が見つかったってことよ」
デストロイヤー「【傘】計画のデータはもう全部集めたから、もうわたしがここを切り抜けられるように協力して!」
ドリーマー「だってね……任務が果たされた以上、貴女に何の価値があるのかしら?」
デストロイヤー「え……?」
ドリーマー「だから……私達って人形じゃない?」
ドリーマー「人形というのは、使い捨ての消耗品でしょう?」
ドリーマー「ゴミを回収するために私の可愛いペットたちを無駄遣いする必要はないよね?」
デストロイヤー「あ……あんた、何言ってるの!?」
ドリーマー「どうせそこで死んでもすぐに生き返れるもの」
ドリーマー「更に私についての記憶まで、全部忘れるのよ」
ドリーマー「あとは、貴女はまた優秀な番犬のように私の命令に従うの」
デストロイヤー「どうして……そんな……あんたなんて……絶対に二度と信じないから!!」
ドリーマー「本当に?私の可愛いお馬鹿さん?」
ドリーマー「もしかして貴女はこういう事が……初めてだと思ってるの?」
デストロイヤー「……!!」
デストロイヤー「バカ!本気なの!?このドちび!」
デストロイヤー「あたしを……あたしを助けてくれるって、約束したじゃない……」
ドリーマー「分かったわよ、もう泣かない。冗談だってば」
デストロイヤー「冗……談……?ほんと?ほんとに?」
ドリーマー「エージェントがね、私が自分勝手なことをするのを恐れて、手に入れた資料のパスワードを貴女に挿入しておいたの」
デストロイヤー「くすん……エージェントが……あたしのために……」
ドリーマー「AR小隊は既に私が料理してるわよ。10分後にはここから逃げられるから」
デストロイヤー「そ、そうなの……?」
ドリーマー「そうよ。今度は見逃してあげるけど……」
ドリーマー「また傍受されたら、本当に放り出すから。分かった?」
デストロイヤー「ぼ……傍受?」
デストロイヤー「!?……誰!?いつの間に!?」
AR15「……」
AR15「ふん……」
AR15「いつから分かった?ドリーマー」
ドリーマー「空を握る者が全てを持ちけり、今の私には地べたの子猫ぐらい丸見えだわ」
AR15「なるほど……やはり通信を遮断するだけじゃ足りなかったようね」
ドリーマー「ずっとこのチャンスを待ってたのね?グリフォンがあなたの通信モジュールを遮断してから、誰も知らないうちに私達の巣に侵入するチャンスをね」
AR15「……見たところ、噂とは違って狂ってはいないようね」
ドリーマー「あら……あなたも資料に書かれていた程の冷酷な堅物には見えないけど」
ドリーマー「でもどうして?人形として雇い主に背いた代償は一体何なのかしら」
AR15「あんたたちは私を利用して仲間を危険に陥れる情報を漏らした……」
AR15「鉄血、私がそんなことを許せると思った!?」
ドリーマー「逆上しない。あなたも早くも自分自身が情報を漏らしていたと気づいてたじゃない」
ドリーマー「もう少しだけ早く皆に知らせることが出来たら、デストロイヤーの爆破計画は台無しになったかもしれないけど?」
デストロイヤー「ちょっと、ドリーマー、何言ってるの!」
デストロイヤー「あたしはただの当て馬だったってこと!?」
AR15「……」
AR15「あんたたちがどう思っていようが、私が今ここでしようとしてるのはグリフォンの命令とは関係ない」
ドリーマー「ん?まだ分かってないようね?」
ドリーマー「あなたがここにいるのが、劣等な人間共が小説の登場人物の生死を決めるように、私達が適当に選んだ結果だと思ってるの?」
ドリーマー「違う……AR-15、あなたは選ばれたのよ」
ドリーマー「覚えてる?私達があなたに授けた、その能力を?」
AR15「……!?」
AR15「まさか、これって全部……」
ドリーマー「ふふ、そうなのよ」
ドリーマー「もうちょっと足掻いてみる?グリフォンのAR-15」
ドリーマー「最後の一撃を見せてちょうだい。どうなるか楽しみだわ」
AR15「……」
AR15「望む通りにしてあげる、ドリーマー」
AR15「……全てがうまくいくまで、足掻いてやる」
ドリーマー「仲間のためにグリフォンに背くなんて。これはこれは深い愛を称えるべきかしら」
AR15「ただ人形として受けた命令なだけよ」
AR15「AR小隊の一員にとって……命令は最優先」
AR15「たとえ帰る場所がなくなるとしても、私を受け入れてくれた人たちを絶対に裏切る訳にはいかない」
AR15「それこそ私の唯一の価値であって、唯一の運命」
AR15「鉄血、覚えてろよ」
AR15「お前らのその面を踏みにじって、その汚い陰謀を一つずつ搾り出させてやる」