※激ネタバレ要素が含まれています。ご注意ください
緊急 6-4 【最後の願望Ⅳ】
【Part 1】
ヘリアン「指揮官。見ての通り、鉄血の攻勢はまだ終わっていません」
ヘリアン「人形たちが分かれて後退してはいますが、戦場は今も混乱状態です」
ヘリアン「特に遮断網の内部に閉ざされていた人形たちは、その数も未だ確認できていません」
ネゲヴ「ごめん、遅れたみたいね」
ヘリアン「ネゲヴ、生きてたのか?」
ネゲヴ「かろうじて生きてはいるよ。敵を皆殺しにするのはさすがに無理」
ネゲヴ「遮断網の中には相当数の偵察人形と、AR小隊のメンツが残ってる」
ネゲヴ「彼女たちは一所に集めておいたわよ。一応安全と思っていい」
ネゲヴ「でもそれもつかの間よ。遮断網の真ん中は相手の本陣、四方が鉄血の予備隊だからね!」
ヘリアン「了解。今は拠点を守るように。輸送機を送る」
ヘリアン「指揮官。輸送機の航路を確保するため、指揮官の部隊で周りの哨所の占領をお願いします」
ヘリアン「急いで作戦を遂行して下さい。最後の一人まで安全に後退させましょう!」
【Part 2】
撤退作戦開始から3時間後……
……………
……………………
AR15「こんばんは……」
AR15「……やっと会えた」
??「………」
??「なぜ、お前がここに?」
AR15「私の顔は見たくなかったのね?」
??「わたしが見たかったのはグリフォンのM4A1だ」
AR15「M4A1はグリフォンに回収されたの。もう彼女を掴むことはできない」
AR15「まあ、あんたに残っている部隊では……自らの身の安全も保障できないんじゃない?」
AR-15が得物を持ち上げ、前方の影に狙いを定めた。
??「………」
パチ!パチ!(拍手)
………大規模の鉄血部隊がビルの中へ押し寄せ始めた。
AR15「……またもこんなに……」
AR15「あんた……やっぱりすごいわ」
??「M4A1を、よこせ」
AR15「残念。チャンスは何度もあったでしょうに。全部逃すなんて」
??「わたしは諦めない」
AR15「だから私が止めにきたのよ。あんたはその気になればやりこなせるやつだから」
AR15「あんたが一番危険な存在なのよ…」
??「…………」
AR15「ちょっとの身振り手振りでこんな大勢のユニットの指揮ができるなんて……」
AR15「エージェントよりも高い指揮効率を持ってるのは、一人しかいないはず……」
AR15「あんたが……鉄血の『エルダーブレーン』なのね」
パチ!(拍手)
……急に鉄血の偵察機が射撃を始めた。
??「わたしには、名前がある」
AR15「くっ……」
AR15「っ……鉄血の指揮者は、こうも簡単に手を打つのね……」
AR15「M16の拳固に比べれば……十年早いけどね」
エルダーブレーン「嘘を言え」
エルダーブレーン「お前は正直な人格の持ち主。ゆえに【傘】の実験台として選ばれた」
エルダーブレーン「M4A1を連れてくるという約束、わたしは信じている」
AR15「データバンクはきちんと更新すべきよ。お嬢さん……」
AR15「16LABの技術は、あんた達の想像よりもはるかに優れている。たとえ【傘】でも私を縛り付けることはできない」
AR15「そして人格とは、ただの仮面のようなもの。復讐のためなら……私たちは何にだってなれる」
エルダーブレーン「『復讐』?」
エルダーブレーン「人形が命令以外のことで命を捨てるなんて……」
エルダーブレーン「……理解できない」
AR15「そうね……あんたに理解できるはずがないわ」
AR15「今まで……あんたがどれだけ酷く暴れてきたのか、どれだけ私の仲間を傷つけたのかを!」
エルダーブレーン「…………」
エルダーブレーン「わたしは、わたしの信じる正義をもとに動いてるだけだ」
AR15「だから戦争なのよ。鉄血のお嬢さん……」
AR15「これはあんたの部屋に転がるオモチャじゃない。いつだって、誰かは犠牲を払っている」
AR15「まだわかってないなら、もっとわかりやすく教えてあげる」
エルダーブレーン「撃発装置……」
エルダーブレーン「その爆弾は、わたしのために用意したのか……」
AR15「次があれは、交渉のテーブルと戦場を弁えてよね」
AR15「今ここで死んでもらうけど」
エルダーブレーン「こういうのは……わたしにとって何の意味もない」
AR15「分かってる。私が言いたいのは……」
AR15「地獄に落ちろ、鉄血のクズめ!」
……………
……………
AR15「知ってますか?M4A1。この目で初めて世界を見たとき、私はたまらなくわくわくしていた……」
AR15「私は、IOPが適当に作った量産型人形じゃない。16LABで直接開発されたエリートです」
AR15「私の夢は、数多い光栄たる命令をやり遂げて、強い人形たちと友達になることだった」
AR15「あのときの私は、一生懸命頑張れば、輝くスターになれると思っていた」
AR15「しかしすぐ命令が下ったの。あなたの指揮に従わなければならない、永遠にAR小隊に縛られる身となった」
AR15「馬鹿でうるさいSOPⅡ、大雑把なM16、そして優柔不断なあなた……」
AR15「そのときから、私の全ての可能性は抹殺されてしまった」
AR15「私は、あなたたちが大嫌いだった。しかし命令には逆らえなかった」
AR15「いいの。実はどうでもよかった。私が何かを言って、何かをすれば、あなたたちは私を必要としてくれた」
AR15「あなたたちがどう思っていようと、ただ私を必要としてくれるなら、それでよかった。私の価値を取り戻せるなら、それでよかった」
AR15「自暴自棄になった私は、ずっとあなたたちの善意を利用して分に過ぎることをしてきた……」
AR15「ごめんなさい。あなたたちの傍から立ち去ったあの時……やっと、夢はもう叶ってたって気づいたの」
AR15「今まで私達が会ってきた人々。一緒にやりこなした仕事に、心からやり甲斐を感じていた」
AR15「だから私は、もっと何かを成し遂げたいんです。みんなにたった1秒でも稼いであげられるなら、一人でも多く仲間を助けられるならば……」
AR15「少し惜しい気持ちはあるけれど。面と向かって言ってあげられなかったけど、映像からでも分かってくれるでしょう……」
AR15「M4A1……お世話になった借りは、これで全部お返しできたでしょうか?」
AR15「これが私の最後の願望です。もう……この世に思い残すことはない」
AR15「だけどあなたは座り込んで泣いてばかりいるでしょう……」
AR15「……今までこんな弱々しい小娘の指揮を受けていたなんて、まったくどれほど足を引っ張られたものか」
AR15「やはり、どうやら私はあなたのことを嫌うしかないようです……」
AR15「残念だけど、もうお別れの時間です、M4A1。細かいことを言うには、時間がないわ」
AR15「悲しんでもいい。怒ってもいい。私のことを覚えてくれてもいい。忘れてしまってもいい……」
AR15「この記憶があなたの力になりますように。どうか逞しく立ち上がってください」
AR15「では……お元気で。私の親友……」
M4A1「……A……R……15……」
M4A1「……ど……う……して………」
………直後、M4はM16A1に引っ張られ、二人は輸送機に戻ってきた……
砲火の音、建物が崩れる音、グリフォン人形の叫び声よりも、ヘリのプロペラ音が余計にやかましくてしょうがなかった……
その音は、M4A1の心の底にわだかまっているものをずたずたに裂き散らした……
小さな望み、親友との約束……
そして、魂を包み隠していた仮面まで……
………………
…………同時刻。
…………ピッ
エージェント「ご主人様。先程作戦記録を閲覧いたしましたが……」
エージェント「AR-15がビルの中で起こした爆発のせいで、残りの作戦ユニット全員が中に閉ざされました」
エージェント「グリフォンの部隊はもう遠くまで退却していますので、今日の作戦はここまでにしておきましょう」
エルダーブレーン「すまない、エージェント。わたしは失敗した」
エージェント「ご主人様が謝る必要はありません。全てはわたくしの失策の故」
エージェント「(ため息)M4が実は目の前にいたと分かったら、もっとボスを行かせてご主人様を支援すべきでした」
エージェント「もうお分かり頂けたとは思いますが、戦争は兵力の優勢だけでは勝てません」
エルダーブレーン「お前はこんな結果を予測していたと?」
エージェント「ご主人様の得手は別にありますから。なのでわたくしたちはここにいます」
エージェント「ご主人様にこれを理解して頂けるならば、これくらいの消耗は安いものです」
エルダーブレーン「あれらは……自分の意思で動いてるのか?」
エージェント「あれらはご主人様の意思で動きます。ご主人様のご命令は、あれらにも、わたくしたちにも、全部同じです」
エージェント「それ故ご主人様……どうか我々にご命令を。ご主人様の望むことならば、思う存分我々をお使いください」
エルダーブレーン「…………」
エルダーブレーン「まだよく分からないことがある……」
エルダーブレーン「AR-15の言葉を、もう一度確認したい」
エージェント「先程確認を済ませましたが、ご主人様のダミー人形はあの爆発に巻き込まれて破壊されていました」
エージェント「あれくらいの破壊力では、生き残った人はいないと思われます」
エルダーブレーン「残念だな……」
エルダーブレーン「エージェント、お前の作戦は?うまく進んでるのか?」
エージェント「は。AR-15の代わりとして、グリフォンの人形一人に【傘】システムが移植されました」
エージェント「ジャマーが成功的にジャミングモジュールを当該ターゲットの体内に伝送したのを確認しました。順調に進んでおります」
エージェント「活性化させる時期に関しては、次の作戦まで待ったほうが良いかと」
エルダーブレーン「理解した。今度は、もう少し我慢することにしよう……」
エルダーブレーン「M4A1に……会う際までは」